「家に帰りたい」と繰り返すお婆ちゃんがいます。
もともとは、インフルエンザで動けなくなったことがきっかけでした。
ご家族の「もう少しリハビリをしてほしい」という希望で老健に入所された方です。
だから、まったく動けないわけではないのです。
それなのに、リハビリを勧めると、昔の古傷を指さして 「これが痛いから動けない」と言うのです。
確かに、しっかり手術をした跡が残っていて、痛みがあるのは本当なのだと思います。
でも、その傷は家で暮らしていた頃からあったものです。
「そんなに急に動けなくなるものなの?」
そう思いながらも、痛いと言われてしまうと、こちらも強くは言えません。
しばらく様子を見ていたのですが、明け方にふらふらと歩いて出てこられることが何度もありました。
となると、まったく動けないわけではなさそうです。
老健で機能が落ちるのは最悪
正直、うーん……と思いました。
老健に入ったのに、ここで機能が落ちてしまったら最悪です。
なので、私は本人にこう伝えました。
「家に帰りたいなら、歩行器を貸すから歩いてください」
すると返ってきたのは、
「自分のことは自分が分かってるんだから大丈夫。放っておいてよ」
いやいや、放っておいたら足腰はどんどん弱くなってしまいます。
本当に帰りたいと思っているなら、やっぱり歩いてもらわないといけません。
ただ、足が痛くなることがあるのも事実のようで、
しばしば「車椅子がいい」と職員に求め、気がつくと車椅子に座っていることもありました。
家には階段があります
そこで、もう一度きちんと話をしました。
「家には階段がありますよね。そこを自力で上れないなら、ご家族は施設を探すと言っていますよ」
「本気で帰りたいなら、歩行器で歩けるようにならないと、階段なんて無理ですよ」
「リハビリの時間は1日のうちたった20分です。
だから、朝昼晩の食事のときくらいは、自分で歩いてご飯を食べに行ってください」
すると、少しずつではありますが、歩行器を使う頻度が増えてきました。
やはり、 「階段が上れないなら施設」
という言葉は、ご本人に強く響いたようです。
家族の本音
ただ、その経過を見ながら、私は別のことも感じていました。
実は、同居されるご家族の本音としては、
「できればお婆ちゃんには施設に入ってほしい」
という気持ちがあるように思えたのです。
老健で時間を稼いで、
「階段が上れないなら自宅は厳しいですね」と本人を説得してほしい。
そんな裏の気持ちが、こちらにも伝わってきてしまうのです。
老健は自宅を目指す施設
でも、老健はあくまでも自宅復帰を目指す施設です。
本人が「帰りたい」と望むなら、こちらは帰す方向でリハビリを頑張ります。
もし本当に「家に帰ってきてほしくない」と思っているのなら、
そこは正々堂々と話し合ってほしい。
そう思います。
もちろん、頑固な高齢者との同居が大変なのはよく分かります。
きれいごとだけでは済まない現実があることも、十分分かっています。
それでも――
そこは、乗り越えてほしいところです。

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