「特養に申し込んでいるのに、何年も待っている」
こんな話、聞いたことはありますか。
特別養護老人ホーム(通称:特養)に申し込んだのに、何年経っても順番が来ない。
家族はもう限界で、でも行き場がない。
これは、決して珍しい話ではありません。
理学療法士として老健で働いてきたポテチにとっても、「知ってはいたけど、実際に目の前で見ると、やっぱりつらい」問題のひとつです。
特養とは?どんな人が優先されるの?
まず簡単に整理します。
特養は、要介護3以上を対象とした、原則終身利用できる介護施設です。
老健(老人保健施設)との大きな違いは、「在宅復帰を目指さなくていい」こと。
リハビリではなく、生活を支えることが主な目的です。
費用も比較的抑えられていて、低所得者向けの減額制度もある。
つまり、在宅生活が難しくなった方が「安心して暮らし続けられる場所」として設計されています。
でも、そこに入れない人が、たくさんいる。
なぜでしょうか。
ある利用者さんの話――在宅限界を超えた先に何があったか
少し前の話です。
比較的若い年齢で脳梗塞を発症し、片麻痺になった男性の利用者さんがいました。
発症からすでに10年。
ご本人はずっと在宅で生活を続けてきました。
介護を担っていたのは、奥様です。
でも、10年という年月は、奥様にも確実に積み重なっていた。
体の不調を訴えることが増えてきて、「以前のようにはできない」という状況になっていきました。
そのため、だんだんとショートステイを利用する日数が増えていきました。
最初は数日。
それが1週間になり……
気がつくと、毎月、月の半分をショートステイで過ごすようになっていたのです。
「あれ、これって……在宅より老健にいる時間の方が長くない?」
そう思いました。
ご本人の身体状況も、少しずつ下がっていました。
骨折があり、コロナやインフルエンザに罹患して、そのたびに少し機能が落ちて。
奥様の介護力も、もう限界を超えていることは、傍目から見ても明らかでした。
特養に申し込んでいる、と聞いていました。
でも、なかなか呼ばれない。
老健のショートステイが「特養待ち」になっている現実
ここで、ひとつ気になることがありました。
月の半分、毎月、ショートステイ。
これを組んだのは、担当のケアマネジャーさんです。
老健のショートステイは、本来「在宅生活を支えるための一時的な利用」が目的です。
あくまで「在宅ありき」のサービス。
月の半分を毎月というのは、制度の趣旨から考えると……正直、グレーです。
もし監査が入ったら、どう説明するんだろう、と思いました。
でも、ケアマネさんがそうせざるを得なかった理由も、わかるのです。
特養に申し込んでも、呼ばれない。
在宅は限界を超えている。
でも、行き場がない。
その空白を、ショートステイで埋めるしかない。
「こっちは特養に申し込んでいるのに、行政が動いてくれないからこうなってるんだ」
そういう、制度への静かな反旗だったのかもしれません。
数が足りない、地域差が大きい
では、なぜ特養に入れないのか。
理由のひとつは、シンプルに数が足りないことです。
全国的に特養の待機者数は多く、地域によっては何百人待ちという状況もあります。
しかも、地域によってその差が大きい。
都市部では特に需要に供給が追いつかず、「申し込んでから何年も待つ」ということが当たり前のように起きています。
「増やせばいい」と思うかもしれませんが、施設を建てるには土地も費用も人材も必要で、そう簡単にはいかない。
制度の根本的な課題のひとつです。
「若い・男性・家族同居」という三重苦
そしてもうひとつ、あまり語られない問題があります。
特養の入居には優先順位があります。
独居で身寄りがない方、認知症が重い方などが優先されやすい。
逆に言うと、同居家族がいる方は、後回しになりやすいのです。
「家族が見られるでしょ」という判断が、そこには働く。
さらに言えば、比較的若い方も、入りにくいという現実があります。
特養は高齢者施設。入居者の平均年齢は80代後半にもなります。
「まだ若い」「まだ家族が頑張れる」という空気が、どこかにある。
この利用者さんの場合、若い・男性・奥様と同居という状況でした。
制度の優先順位のなかで、どうしても後になってしまう。
それは、在宅の限界がどれだけ明らかでも、変わらないのです。
ケアマネジャーの苦肉の策
ケアマネジャーは、利用者さんと家族の生活を守るために動いています。
「申し込んでいるのに来ない」
「在宅はもう無理」
「でも入れるところがない」
その板挟みのなかで、グレーゾーンを承知のうえで、毎月のショートステイを組み続けていた。
それが正しかったかどうかは、難しい問いです。
でも、制度の網の目からこぼれ落ちそうな人を、なんとかすくおうとしていたのだと思います。
ケアマネさんを責める気には、なれませんでした。
それでも、願うこと
「特養に入れない」は、その人の努力が足りないわけでも、家族の愛情が足りないわけでもありません。
制度の数が、現実に追いついていない。
優先順位のしくみが、本当に困っている人の実情を、すくいきれていないことがある。
ただただ、もっと多くの人に知ってほしいと思います。
「在宅が難しくなったら特養へ」という道が、今の日本ではまだ誰にでも開かれているわけではない、ということを。
そして、制度の隙間で悩みながらも利用者さんを支え続けているケアマネジャーや介護スタッフがいること。
その現実が、少しでも伝わりますように。



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