目次
1. 吸引って、誰がやっていいの?
2. 吸引に関する法律のこと
3. 家族が吸引をするのは「違法」なの?
4. 理学療法士(PT)は吸引できるの?
5. 在宅で吸引をするとき、実際に困ること
6. それでも、知っておいてほしいこと
吸引って、誰がやっていいの?
在宅介護をしていると、ある日突然「吸引が必要になった」という場面が来ることがあります。
のどに痰がからまって、うまく出せない。
咳き込んでも、自分では出しきれない。
そのとき、そばにいるのは家族だけ――ということは、珍しくないのです。
でも、「吸引って医療行為じゃないの? 家族がやっていいの?」という疑問が浮かびますよね。
正直、私ポテチも、理学療法士として働いていながら、この法律のことをちゃんと整理したのは、かなり後になってからでした。
吸引に関する法律のこと
吸引(喀痰吸引)は、原則として医行為とされています。
医師法・保健師助産師看護師法により、基本的には医師・看護師などの医療職が行うもの、と定められています。
それが少し変わったのが2012年(平成24年)のこと。
社会福祉士及び介護福祉士法が改正されて、一定の研修を受けた介護職員や介護福祉士も、条件つきで吸引を行えるようになりました。
条件は、こうです。
- 医師の指示があること
- 看護師と連携していること
- 本人・家族の同意があること
この3つがそろって、はじめて介護職員が吸引できる。
それまでは「やっていい人」が、医師・看護師・歯科医師・歯科衛生士に限られていたわけです。
家族が吸引をするのは「違法」なの?
結論から言うと、家族が吸引を行うことは、違法ではありません。
厚生労働省の通知(平成17年)では、「家族が日常的なケアとして吸引を行うことは、医行為の制限の対象外である」とされています。
「業として(仕事として)繰り返し行う」のが医行為の規制対象であって、家族が家族のためにケアをする行為には、その制限が直接かかるわけではない、ということなのです。
ただし――です。
「違法ではない」と「安全にできる」は、まったく別の話です。
理学療法士(PT)は吸引できるの?
これ、現場のPTがよく直面する、かなりグレーな問題です。
結論から言うと――PTの業務範囲に、吸引は含まれていません。
理学療法士及び作業療法士法では、PTの業務は「理学療法」、つまり運動療法・物理療法です。
喀痰吸引は、その定義には入っていない。
では、リハビリ中に痰が詰まったら?
原則は「看護師を呼ぶ」です。
病院や施設であれば、それができます。
でも在宅リハビリで、PTが一人で訪問しているとき、利用者さんが目の前で痰で苦しんでいたら――どうするか。
正直、ここは現場のPTが一番困るところです。
2012年の制度改正(介護職員への吸引解禁)も、PTは対象外でした。
介護福祉士や研修を受けた介護職員はOKで、PTはグレーのまま、という少しちぐはぐな状況が続いています。
ここで、ポテチ自身の話をしてもいいですか。
2012年、私は病院に勤めていました。
ちょうど介護職員への吸引が解禁されたその年。
病院の看護師さんに指導を受けて、PT同士で自主的に勉強会を開いて。
系列の有料老人ホームにバイトに行っていたとき――口腔内の吸引を、実際に行っていました。
鼻腔からはさすがに自信がなくて、やりませんでした。
正直に言います。
法律的に「PTがやっていい」という根拠が、当時の私にも明確ではなかった。
でも、目の前の利用者さんが痰で苦しそうで、看護師がいなくて、手元に吸引機があって。
「やれる人間が、やる」という判断をしていました。
これが正解だったかどうかは、今でも少し考えます。
ただ、看護師さんの指導のもとで技術を身につけ、連携体制のある環境でやっていた。
それだけは、確かです。
制度が「グレー」のままなら、せめて「技術と連携」だけはしっかり持っておく。
現場のPTとして、それが私の出した答えでした。
在宅で吸引をするとき、実際に困ること
①技術的なむずかしさ
吸引は、思っているより繊細な手技です。
カテーテルを入れる深さ、吸引圧の調整、時間の長さ。
間違えると、粘膜を傷つけたり、低酸素を招いたりするリスクがある。
口の中(口腔内)の吸引と、鼻から入れる吸引、気管カニューレのある方への吸引では、難易度がまったく違います。
②指導を十分に受けられないまま退院してしまう問題
「退院前に一度だけ練習しました」で在宅に戻るケースが、残念ながら少なくない。
一度見ただけでは、自信も持てないし、イレギュラーな事態に対応できません。
「何かあったら訪問看護師に電話して」と言われても、夜中の2時に電話できるか、という問題があります。
③精神的な負担が想像以上に重い
「うまくできなかったら、どうしよう」
この恐怖は、やった人にしかわかりません。
家族が「自分のせいで傷つけてしまうかもしれない」という緊張を毎日抱えながら介護をする。
それが、介護者のバーンアウトにつながっていくのです。
④夜間・緊急時の対応
訪問看護が入っていても、24時間対応でないことは多い。
痰が詰まって苦しそうなのが深夜で、でも訪問看護師はすぐ来られない。
そのとき、家族が一人で対応するしかない、という現実があります。
⑤物品の管理・コストの問題
吸引機のレンタル代、カテーテルなどの消耗品、停電時のバッテリー確保。
「道具があればできる」ではなく、維持・管理も家族の仕事になります。
それでも、知っておいてほしいこと
吸引が必要になった在宅の方を、私は何人も見てきました。
家族が必死に覚えて、毎日吸引して、それで在宅生活が続いている方が、確かにいます。
でも、「法律的にできる」と「継続できる体制がある」は別の話。
家族一人に任せきりにするシステムのまま「在宅で頑張って」と言うのは、正直、無理がある、とポテチは思っています。
だから、吸引が必要になったら――
- 訪問看護師に指導してもらう機会を必ず作ること
- 緊急時の連絡先と手順を確認しておくこと
- ひとりで抱え込まないこと
この3つを、まず確認してほしいのです。
在宅での吸引は「できる」。でも、「安心してできる環境」は、自分たちで整えていかなければいけない。
そのことが、もっと知られてほしいと思っています。


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