歯のこと、ちゃんと気にしていますか?
老健でリハビリをしていると、口のにおいが気になる利用者さんに出会うことがあります。
「あ、歯磨き、できていないのかな」
そう思いながら、でも直接言えなくて。
PT(理学療法士)ってリハビリの専門職だから、口腔ケアは歯科衛生士さんの領域なんです。
でも――。
歯のことを「歯だけの話」と思っていたら、大間違いだということが、最近の研究でどんどん明らかになってきています。
今日は、歯周病と認知症・肺炎の関係について書いてみます。
歯周病と認知症――怖い関係がわかってきた
ずばり言います。
歯周病菌が、脳に届くのです。
えっ。と思いますよね。私も最初そう思いました。
歯周病の原因菌のひとつに、ジンジバリス菌(Porphyromonas gingivalis)というものがあります。
この菌、口の中だけでおとなしくしてくれればいいのですが、歯茎から血管の中に入り込んで、全身を巡ることがわかっています。
そして――。
アルツハイマー型認知症の患者さんの脳を調べたら、このジンジバリス菌や、菌が出す毒素(ジンジパインと呼ばれます)が見つかった、という研究報告があるのです。
因果関係はまだ「証明された」とは言い切れません。
でも、「関係しているかもしれない」という段階から、「かなり関係している」という段階に、研究は進んできています。
もうひとつ。
歯周病があると、体の中で炎症性サイトカインという物質が増えます。
これが血液を通じて脳に影響し、神経細胞を傷つけるルートも指摘されています。
「歯が悪いと頭が悪くなる」
なんて乱暴な言い方ですが、あながち的外れでもない、のだと思います。
歯周病と肺炎――高齢者が命を落とす理由のひとつ
もうひとつ、忘れてはいけない話があります。
誤嚥性肺炎です。
高齢者の肺炎の多くは、口の中の細菌が、唾液や食べ物と一緒に誤って肺に入ることで起きます。
口腔内が不衛生だと、その細菌の量も種類もどんどん増えていく。
そして夜中、本人が気づかないうちに、唾液が少しずつ気管の方に流れていって……。
それが誤嚥性肺炎の始まりです。
老健でも、肺炎で入院する利用者さんを何人も見てきました。
「先週まで元気だったのに」と思う方ほど、突然状態が悪くなることがある。
研究では、口腔ケアを徹底するだけで、誤嚥性肺炎のリスクが有意に下がることが示されています。
薬でも手術でもなく、歯磨きで防げる可能性があるんです。
ほらね。そうなのです。
だから口腔ケアは大事、というわけです。
口腔ケアって、実際どうすればいいの?
老健には、定期的に歯科衛生士さんが来てくださいます。
これ、入所されている方は全員チェックを受けるんです。
そして――正直、けっこう厳しいです。
義歯(入れ歯)の方は洗浄が徹底されているか。
自歯の残っている方は、食後の歯磨きがちゃんとできているか。
自分ではうまく磨けない方は、スタッフが介助して磨く。
「それくらい自分でやってよ」という雰囲気は一切なくて、当たり前のこととして口腔ケアが日常に組み込まれています。
最初は「そこまでするの?」と思ったのが正直なところです。
でも、今は全然そう思わない。
認知症のリスク、誤嚥性肺炎のリスク――それを知ってしまったら、あの「厳しいチェック」が全部理にかなっているとわかるから。
施設の中で当たり前にやっていることが、家の中ではなかなかできない。
それが在宅介護の難しさでもあるな、と思います。
PTである私ポテチが思うこと
認知症の父と暮らしていたとき。
父の歯がどうなっているか、気にしたことがなかった。
……本当に、一度もなかったと思います。
だって、歯磨きって「できて当たり前」のことだから。
大人なんだから、自分でやるもの。
私がやることじゃない、と思っていた。
認知症になっても、そのへんは変わらないだろうと、どこかで思っていたのかもしれません。
ちゃんと食べているか、転んでいないか、夜中に出ていかないか。
そっちで頭がいっぱいで――口の中のことなんて、頭の中に存在すらしていなかった。
だから今、歯科衛生士さんが施設に来てくれて、利用者さん全員の口をきちんとチェックしてくれているのを見るたびに、思うのです。
「父にも、これが必要だったんだな」と。
遅い気づきです。
でも、気づかないよりはいい。
在宅で介護をしている方、今まさに必死な方――口のことまで気が回らなくて当然です。
ポテチもそうでした。
それでも、歯周病が認知症や肺炎と関係しているということを、頭の片隅に置いておいてほしいのです。
週1回でも、歯を見てあげるだけでいい。
それだけでも、違うかもしれないから。


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